現在位置: ホーム 研究活動 5つの戦略課題 第3部会:分子機能と物質変換 重点課題1:全原子シミュレーションによるウイルスの分子科学の展開

重点課題1:全原子シミュレーションによるウイルスの分子科学の展開

作者: admin — 最終変更 2013年10月03日 01時01分

[担当者]名古屋大:岡崎 進、京都大:北浦和夫、東京大:北尾彰朗、金沢大:長尾秀美

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[課題内容・背景・重要性] ウイルスがもたらす感染症は、今や国家の責任で対策を講ずべき重要な課題となっている。ウイルスの克服は、感染や免疫、そして増殖機構の理解があって初めて可能なものであり、このためウイルス殻やウイルスが持つタンパク質の構造や機能を分子・原子レベルで明らかにすることが強く求められている。しかしながら、このような研究は実験的には極めて困難なものであり、実験に代わる新たな研究手法の展開が不可欠なものとなっている。そこで本課題においては、次世代スーパーコンピュータの登場により初めて可能となるウイルスの全原子シミュレーションやウイルスタンパク質の全電子計算等を実行することにより、感染機構や免疫機構、また抗ウイルス剤との相互作用などを自由エネルギーレベルで明らかにし、計算科学によるウイルスの分子科学を世界に先駆けて確立する。

fig3-2.png[計算手法] 中核アプリとして開発している高並列汎用分子動力学シミュレーションソフト[modylas]を用いて1、000万原子系に対するマイクロ秒の分子動力学計算を実行し、ウイルスの丸ごとシミュレーションを行う。一方で、同じく中核アプリとして開発してきている電子相間を取り入れたフラグメント分子軌道計算ソフト[FMO/MP2]を用いて、溶媒効果も含めた数千原子系の高精度全電子計算を、一定温度での統計解析を可能としながら実行する。

[次世代スパコンの必要性・実現可能性] 本課題の計算においては、次世代スパコンの全システムを同時に使用して、実効性能1PFlopsでの超並列計算を実行する。modylas、FMO/MP2いずれもグランドチャレンジ研究において順調に開発が進められてきており、またサイエンスとしてもすでに予備計算に着手しているなど、実現可能性は充分に高い。同様な方向は米国におけるBlue Water計画においても志向されているが、8万ノード並列に及ぶ超並列の効率的な高精度計算は、modylas、FMO/MP2においてのみ可能である。

fig3-3.png[具体的な成果目標] 本研究においては、感染症の克服に向けたウイルス制御の第一歩として、物質と生命の境界領域にあるウイルスに対する分子論的基礎を世界に先駆けて築く。特に、小児マヒウイルスのウイルスカプシドとレセプターや抗体との特異な相互作用を自由エネルギーレベルで評価することにより感染や免疫の分子機構を解明するとともに、複合タンパク質であるウイルスカプシドに対する構成タンパク質間の接合構造と熱ゆらぎ、また温度、pH、溶媒など環境に依存した構造の特徴を明らかにする。一方で、インフルエンザウイルスなどエンベロープを持つウイルスについて、感染に関与するタンパク質間の分子間相互作用を電子レベルで明らかにするとともに、ウイルスの感染や増殖に関連するタンパク質をターゲットとして阻害活性を有する化合物の探索とその活性評価を行い、論理的・効率的な治療薬の開発のための指針を明らかにする。