現在位置: ホーム 研究活動 5つの戦略課題 第4部会:エネルギー変換 重点課題1:燃料電池関連物質における基礎過程の大規模計算による研究

重点課題1:燃料電池関連物質における基礎過程の大規模計算による研究

作者: admin — 最終変更 2013年10月03日 01時09分

[担当者] 東京大:杉野修、豊田中研:兵頭志明、名古屋工業大:尾形修司、東北大:塚田捷、 東京大:牛山浩

fig4-1.png

[課題内容・背景・重要性] 固体高分子形燃料電池の場合その電解質膜のモルフォロジーは数十nmを単位とする不均一構造を有し、また電極触媒系は数nmの平均粒径を有する担持白金微粒子によって構成されている。この2種類の材料が共存する領域で水素の酸化や酸素の還元反応が電気化学的に生じている。このために、①固体表面の電子状態計算を電気化学系で最大規模に適用する方法の実現、②電気化学的環境での高精度電子状態理論の開発、③粒子系シミュレーション法の大規模不均一系への適用と広範な時間スケールでの解析方法の開発をそれぞれの計算結果を互いに参照し合える形で実現される必要がある。これらの必要性を前提とした計算法の開発と大規模計算を実施して燃料電池関連材料の基礎過程を明らかにし、実験と密接に連携を取りながら確固とした理論体系を築き上げると同時に、材料の本質に立脚した提案を行うための研究方法を構築する。産業界での開発研究に活用できる手法につなげることを目指す。

[計算手法] 対象となる現象は複数の要素が混在しているために単一の方法のみで課題を解決することはほぼ不可能であり、以下の5つの既存の手法等を互いに参照可能な形で関連させながら発展させる。 (1)電極触媒反応シミュレーション(東京大学・杉野修):負極での水素等の酸化や正極での酸素の還元に関して開発してきた第一原理シミュレーション手法(ESM-FPMD)の高度化・大規模並列化を果たすことにより現実的な電気化学環境下での計算を可能にする。 (2)イオン輸送シミュレーション(豊田中研・兵頭志明):高分子電解質膜でのプロトン移動に用いてきた第一原理シミュレーションソフト[FEMTECK]や大規模分子動力学シミュレーション、電解質膜構造決定のために用いてきた多階層シミュレーションのソフトの高並列化を果たす。 (3)大規模多階層計算(名古屋工業大学・尾形修司):古典静電気学理論や溶液理論等マクロな環境と第一原理的電子論等ミクロな要素を取り入れた総合粗視化動力学シミュレーション法を確立する。 (4)電気化学環境下の溶液シミュレーション(東北大学・塚田捷): STMおよびAFM用シミュレーション法の電気化学環境下(溶媒・電位差・閉じ込め効果等)への拡張、量子化学計算法を溶液論と接続する手法(3D−RISM)やフラグメント分子軌道計算ソフト[FMO/MP2]の発展を行う。 (5)電気化学環境下での精密電子状態計算法の開発(東京大学・牛山浩):電子相関の記述、反応経路探索、量子効果等のより高度な電子状態計算手法を電気化学環境下に適用するための方法論の開発。

[次世代スパコンの必要性・実現可能性] 上記の要素的な手法は既に個別的に燃料電池研究に適用されている。それらの高度化・並列化を果たしながら互いに参照可能な形で発展させていくことは十分に可能であると考えられるが、互いの連携を強める程計算は大規模になり桁違いの計算機時間が必要になる。また本課題を実現するためには特に、第1部会、および、第2部会で開発、検討される超並列電子状態計算コードを電気化学系へ適用し、第3部会で開発、検討される超並列向け大規模分子動力学計算コードを電解質膜系のモルフォロジーシミュレーションに適用することが重要な要素となる。さらに本課題の高度な総合性ゆえ、以下の研究者からなるコミュニティーを形成することが重要である。北海道大:武次徹也、東北大:池庄司民夫、赤木和人、濱田幾太郎、産総研:大谷実、崔隆基、香山正憲、物材機構:館山佳尚、NEC:岡本穏治、早稲田大:中井浩巳、分子研:平田文男、名古屋大:岡崎進、大阪大:森川良忠、笠井秀明、京都大:山本量一、岡山大学:甲賀研一郎。

[具体的な成果目標] 電気化学環境下での現実的な数万並列第一原理分子動力学計算をはじめとする総合的シミュレーションを実現する。その計算結果と精密実験との比較を詳細に行うことにより、幅広い利用に耐えるシミュレーションとしての信頼性を確立する。また、電子状態計算の高度化を達成することにより新規材料として候補に挙げられている例えば遷移金属酸化物電極や炭化水素系電解質膜などの計算を可能にし、実験家との協力体制の下で機能性の理論予測等を行う。これらを通じて燃料電池機能に関する理論体系を確立し、実効的な応用を図る。