現在位置: ホーム 研究活動 5つの戦略課題 第4部会:エネルギー変換 サブ課題1:太陽電池における光電変換の基礎過程の研究と変換効率最適化・長寿命化にむけた大規模数値計算

サブ課題1:太陽電池における光電変換の基礎過程の研究と変換効率最適化・長寿命化にむけた大規模数値計算

作者: admin — 最終変更 2013年10月03日 01時18分

[担当者] 東京大:山下晃一、杉野修、NEC:宮本良之、物材機構:館山佳尚、京都大:長谷川淳也

[課題内容・背景・重要性] 太陽光エネルギーを有効に活用する技術は、二酸化炭素排出量を削減し、現代文明のサステイナビリティーを実現するうえでの懸案課題である。既存の半導体太陽電池の高効率化、新規の有機太陽電池の超寿命化を達成する技術が模索されている一方、接合狭窄効果による多重励起状態の安定化など量子閉じ込め効果を利用した新たな原理が提案されている。また光合成バクテリアなど生態系と類似の光電変換過程を活用する研究も進んでいる。光エネルギー変換の基礎過程は (i)電子正孔対形成(集光)、(ii)電子正孔対分離(電荷分離)、(iii)エネルギー移動・緩和と散逸、の3点から構成されておりそれらの効率を向上させる必要がある。電子の基底状態理論と比べると未開拓な領域であり、物質科学の分野では最も高度な計算科学的課題として挑戦的な研究が必要とされ、大規模計算機を用いたブレークスルーが期待されている。

[計算手法] (i)-(iii)の基礎過程の研究手法としてこれまで(1)時間依存密度汎関数理論(TDDFT)に基づく実時間発展計算、励起状態のダイナミクスを第一原理的に計算するための簡便ながら強力な手法であり、半導体系における光励起と電子・正孔分離を複合的に扱った計算と、(2)クラスター展開理論や多配置型摂動理論などの高精度な量子化学計算や多体摂動論等により小自由度モデル系の励起エネルギーやポテンシャル面を求め、周囲の環境の影響やエネルギーの緩和を量子古典混合(QM/MM)法や量子散逸動力学の方法で扱う方法、の二種類のものが主に用いられてきた。高並列化により計算規模を大きくすることは必須であるが、基礎過程に関与する時間空間的スケールは何桁にもわたるため、一つの方法だけでは不十分である。また励起状態においては周囲の環境の影響やエネルギーの緩和と散逸が本質的に重要である。エネルギー緩和は、光励起で生成された電子と正孔が最終的に得る回路開放電圧を決定付ける、一方エネルギー散逸は、主に格子系への熱となって散逸するエネルギー量を決定付ける。燃料電池計算同様、互いに参照可能な形で複数の計算アルゴリズム・プログラムを開発することが本課題においても必須である。一方、湿式太陽電池等では溶媒効果や電気化学反応に関しても明らかにすることが効率向上には必要となる。そのため、燃料電池やリチウム二次電池と協力して研究を遂行する。

[次世代スパコンの必要性・実現可能性]  TDDFTを用いた励起ダイナミクス・シミュレーションは既に半導体系・有機分子系に適用され、光起電現象を再現する計算結果が出ている。当該計算手法は基底状態計算も含めて並列化のボトルネックとなる規格直交化が不要であり大規模並列化に適している。量子化学計算に関しては、既存の理論と計算プログラムを用いた大規模計算により、数百原子程度からなる分子に関する研究が可能である。実際、色素増感剤として用いられる有機分子や金属錯体の大半はこの範囲に入り計算により実用的な情報を得ることができる。本課題を遂行するために、物性・化学・材料の研究者コミュニティーを形成することが有効と考えられる。そこで本課題には、上記の他に、東北大学・川添良幸、横浜国大・大野かおるらが関わる。

[具体的な成果目標] 大規模数値計算に基づく上記(i)-(iii)の基礎過程の理解を進展させることにより、①PN接合系やSiナノワイヤといった半導体太陽電池におけるエネルギー変換効率を向上させるための条件や材料探索指針の獲得を行う。その際、光励起から電子・正孔分離の高速ダイナミクス、それを阻害する欠陥・格子散乱などの機構を明らかにする。②有機・色素増感型太陽電池における光吸収と光化学特性の両方に優れた材料分子の条件を明らかにする。その際、光励起化学反応のシミュレーションを行うことにより有機分子の可視光・紫外光照射時の構造劣化の機構や、同時に色素増感型太陽電池に関わる電気化学的反応機構も併せて明らかにする。なお、量子閉じ込め効果を利用した効率向上のための研究は別のサブ課題で主に扱う。

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