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行列の固有値と固有ベクトルの求め方を計算例つきで徹底解説

文:相馬 悠人 約9分で読めます

線形代数を学び始めると、必ずといっていいほど登場するのが「固有値」と「固有ベクトル」です。名前だけを見ると難しそうに感じるかもしれませんが、計算の手順そのものは決まっています。一度そのステップを理解してしまえば、あとは同じ流れを繰り返すだけです。

個人的な経験では、この分野でつまずく方の多くは、計算方法ではなく「なぜそれを求めるのか」というイメージが持てないまま進んでしまっているように感じます。

そこでこの記事では、具体的な数値を使いながら、実際に手を動かして固有値と固有ベクトルを求める流れを一緒に確認していきます。

この記事で学べること

  • 固有値は「特性方程式 det(A−λE)=0」を解くだけで必ず求められる。
  • 2次の行列なら固有値は最大2個、計算は数分で完了する。
  • 固有ベクトルは連立方程式を解くと、定数倍の自由度が残るのが正解。
  • 固有値の和は対角成分の和、積は行列式に一致するので検算に使える。
  • 固有値と固有ベクトルは画像圧縮や振動解析など身近な技術を支えている。

固有値と固有ベクトルとは何か

まずは言葉の意味を確認しましょう。

正方行列 A に対して、あるベクトル x(ゼロベクトルではない)と数 λ が、次の関係を満たすとします。

A x = λ x

この式が意味するのは、「行列 A を掛けても、ベクトル x の向きは変わらず、長さだけが λ 倍になる」ということです。

このときの λ を固有値、x を固有ベクトルと呼びます。

行列は本来、ベクトルの向きも長さも変えてしまう働きを持ちます。ところが固有ベクトルだけは、向きを保ったまま伸び縮みするという特別な性質を持っているのです。この「特別な方向」を見つけ出す作業が、今回のテーマです。

行列という変換の中で、向きを変えられない「軸」を探す。それが固有ベクトルを求めるということです。

線形代数の基本的な考え方

計算の基本的な流れ

固有値と固有ベクトルとは何か - 行列 固有値と固有ベクトルの求め方(計算例つき)
固有値と固有ベクトルとは何か – 行列 固有値と固有ベクトルの求め方(計算例つき)

固有値と固有ベクトルは、次の3つのステップで求められます。難しい発想は必要ありません。決まった順番に沿って進めるだけです。

1

特性方程式を立てる

det(A−λE)=0 を計算し、λ についての方程式をつくります。

2

固有値を求める

方程式を解いて λ の値を出します。これが固有値です。

3

固有ベクトルを求める

各 λ を (A−λE)x=0 に代入し、連立方程式を解きます。

ここで登場する E は単位行列、det は行列式を表します。特性方程式とは、簡単に言えば「向きを変えないベクトルが存在するための条件式」だと考えてください。

2次正方行列での計算例

計算の基本的な流れ - 行列 固有値と固有ベクトルの求め方(計算例つき)
計算の基本的な流れ – 行列 固有値と固有ベクトルの求め方(計算例つき)

それでは実際に数値を入れて計算してみましょう。次の行列 A を例にします。

A = [[3, 1], [2, 2]]

1行目が (3, 1)、2行目が (2, 2) の2次正方行列です。

ステップ1 特性方程式を立てる

A から λE を引きます。単位行列 E の対角成分に λ を掛けた形なので、対角成分から λ を引くだけです。

A − λE = [[3−λ, 1], [2, 2−λ]]

この行列式を計算します。2次の行列式は「左上×右下 − 右上×左下」で求められます。

det(A−λE) = (3−λ)(2−λ) − (1×2)

展開していきましょう。

= 6 − 3λ − 2λ + λ² − 2 = λ² − 5λ + 4

これを 0 とおいたものが特性方程式です。

λ² − 5λ + 4 = 0

ステップ2 固有値を求める

この2次方程式を因数分解します。

(λ − 1)(λ − 4) = 0

よって固有値は λ = 1λ = 4 の2つです。

ここで検算をしてみましょう。固有値の和は 1+4=5 で、これは行列 A の対角成分の和(3+2=5)と一致します。固有値の積は 1×4=4 で、行列式(3×2−1×2=4)と一致します。この関係を使えば計算ミスにすぐ気づけます。

💡 実体験から学んだこと
固有値を求めた時点で「和=対角成分の和」「積=行列式」の検算を挟む習慣をつけたところ、テストでの計算ミスがぐっと減りました。ほんの数秒の確認で、その後の固有ベクトルの計算をやり直す手間を防げます。

ステップ3 固有ベクトルを求める

それぞれの固有値について、(A−λE)x = 0 を解きます。

λ = 1 の場合

A − 1·E = [[2, 1], [2, 1]] となります。x = (x₁, x₂) とおくと、連立方程式は次のようになります。

2x₁ + x₂ = 0

2つの式が同じになるため、実質的な条件は1つだけです。ここから x₂ = −2x₁ が得られます。x₁ = 1 とすると、固有ベクトルは次の形になります。

x = (1, −2)(の定数倍)

λ = 4 の場合

A − 4·E = [[−1, 1], [2, −2]] となります。連立方程式は次のとおりです。

−x₁ + x₂ = 0

ここから x₁ = x₂ が得られます。x₁ = 1 とすると、固有ベクトルは次のようになります。

x = (1, 1)(の定数倍)

固有ベクトルは1つに定まらず、必ず「定数倍の自由度」が残ります。これは間違いではなく、そういうものだと理解してください。向きが同じなら長さはいくらでもよい、というのが固有ベクトルの性質だからです。

計算でつまずきやすいポイント

2次正方行列での計算例 - 行列 固有値と固有ベクトルの求め方(計算例つき)
2次正方行列での計算例 – 行列 固有値と固有ベクトルの求め方(計算例つき)

初めて取り組む方が迷いやすい部分をまとめておきます。

⚠️
注意事項
固有ベクトルの計算で「解が答えられない」と感じたら、多くの場合それは正常です。連立方程式の式が重複して1つの条件しか残らないため、答えは一意に決まらず定数倍の自由度が残るのが本来の姿です。

もう一つよく見かける課題として、特性方程式の符号ミスがあります。多くの方が (A−λE) の λ を引き忘れたり、行列式の展開で符号を取り違えたりしがちです。焦らず、対角成分から λ を引くという基本に立ち返れば防げます。

また、固有値が重解になったり、複素数になったりするケースもあります。実務では対称行列を扱うことが多く、その場合は固有値が必ず実数になるため、比較的計算が安定します。

固有値と固有ベクトルは何の役に立つのか

抽象的な計算に見えますが、応用範囲はとても広いものです。

たとえば画像データの圧縮や、機械学習で使われる主成分分析(PCA)は、データの分散が最も大きくなる方向を固有ベクトルとして取り出す仕組みです。建物や橋の振動解析では、固有値が振動しやすい周波数に対応します。

身近なところでは、検索エンジンのページ評価にも固有ベクトルの考え方が使われてきました。信号処理の分野で活躍する高速フーリエ変換の仕組みと応用と同じように、線形代数の理論は現代の技術を静かに支えています。

複雑な問題を扱いやすい要素に分けて考えるという姿勢は、デカルトの「困難は分割せよ」という格言と分割統治法にも通じる、数学に共通する考え方だといえるでしょう。

計算前に確認したいこと




💡 実体験から学んだこと
最初は「固有ベクトルの答えが人によって違う」ことに戸惑いました。x=(1,−2) でも (−2,4) でも正解です。向きが同じなら正しい、と割り切れた瞬間から、この分野が急に楽になったのを覚えています。

よくある質問

固有値はいくつまで出てきますか

n次の正方行列であれば、固有値は重複を含めて最大でn個出てきます。今回のような2次の行列なら最大2個です。ただし重解になる場合もあるため、必ず2つの異なる値が出るとは限りません。

固有ベクトルの答えが一つに決まらないのはなぜですか

固有ベクトルは「向き」を表すものなので、長さは自由に選べます。そのため x=(1,−2) も、その2倍の (2,−4) も、すべて正しい固有ベクトルです。定数倍の自由度が残るのが正常な状態です。

固有値が複素数になったら計算を間違えていますか

間違いとは限りません。回転を表す行列などでは固有値が複素数になることがあります。実数解しか出ないと決めつけず、特性方程式の判別式を確認してみてください。

3次以上の行列でも同じ手順で解けますか

基本の流れは同じですが、特性方程式が3次方程式になるため因数分解の難易度が上がります。実務では手計算より、表計算ソフトや数値計算ライブラリを使うことが多くなります。

計算結果が正しいか確かめる方法はありますか

固有値の和が対角成分の和と一致するか、積が行列式と一致するかを確認するのが手軽です。固有ベクトルは、実際に Ax を計算して λx になるか代入して確かめられます。

まとめ

固有値と固有ベクトルの計算は、「特性方程式を立てる」「固有値を求める」「固有ベクトルを求める」という3つのステップに集約されます。手順が決まっているからこそ、練習を重ねれば誰でも確実に解けるようになります。

まずは今回の例と同じ2次の行列で、自分の手を動かして計算してみてください。数字を変えて何度か繰り返すうちに、流れが自然と身についていくはずです。

そしてこの計算が、画像処理やデータ分析といった現代技術の土台になっていることを思い出せば、一つひとつの計算にも意味が感じられるのではないでしょうか。

相馬 悠人

相馬 悠人サイエンス・イニシアティブ編集部

サイエンス・イニシアティブ編集長。大学院で物理学を専攻後、出版社で科学雑誌の編集に約10年携わる。専門は宇宙・物理領域。…

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