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次世代スーパーコンピュータ物質科学シンポジウム 開催報告

作者: admin — 最終変更 2013年11月01日 19時23分

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日時
平成22年2月20日(土)11:00-17:30
場所
東京大学工学部2号館 1階213号講義室
出席者
150名

概要

「源流から奔流へ」を目標とした分野2戦略機関FSのシンポジウム会場は、約150名の産官学からの参加者で埋まり、熱気にあふれた。挨拶では、事業仕分けから予算復活の経緯、社会に対する説明責任、次世代スパコンでなければできない成果を出し、社会に還元していく必要が述べられた。パネルディスカッションでは、推進体制とテーマに関する活発な議論がなされた。午後の研究代表者による講演では、次世代スパコンで初めて達成されるテーマの紹介がなされ、議論が交わされた。以下に各プログラムの内容を報告する。

挨拶

家泰弘 (物性研究所長)

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「事業仕分け」で有名になった次世代スパコンPjがスタートできることになったことに関し、皆さまのご支援にお礼を述べる。この半世紀で一番発展した技術はコンピュータである。次世代スパコン戦略プログラムは、その最先端のスパコンを活用するためのものである。活用するためには運営組織をしっかりと築き、若い人を巻き込んでハードとソフトを連携させて装置のブラックボックス化を避け、ユーザーに開放していくことが目標と考える。戦略機関FSでは物性研にある計算物性専用のスパコンと次世代スパコンのかかわりを検討しなければならない。物性科学が分子、材料も含めた大きな括りとなる第一歩を今日踏み出した。今日は皆さまに夢を語ってもらう。

倉持隆雄 (文部科学省審議官)

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事業仕分けは社会のトピックスであり、説明責任を負っている重さを知った。皆さまコミュニティーの意見が力になり、凍結から閣僚折衝で復活した。政権が代わり、専門家以外の方の意見や見方を意識して政策をつくらなければならないので、ここにいる現場の皆さまの発信や声をいままで以上にいただきながら政策を作っていく。次世代スパコンPjはHPCIに名前を変えたが、システムをどのように使うかが最大の課題。文科省では議論を重ね、「10ペタでシミュレーションの質を変え、さらに、変わるものが出来る」という必要性を訴えている。次世代スパコンで初めてできることに期待している。全国の方々とのネットワークを作り、大きく世界に羽ばたいていけるように支援していきたい。スタートは遅れたが、戦略プログラムFSの5分野で、10ペタならではの成果をどうやって作っていくのかを、コミュニティーの流派流儀を超えた情報交換をおこなってもらい、山の頂を目指すためのスタートの議論を始めてもらった。相手は世界、がんばっていただきたい。本日は、皆さまの決意を聞きたい。

寺倉清之 (次世代スパコン戦略委員会委員)

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物質科学は分野、コミュニティーが広く、取りまとめるのが難しい側面もあるが、物性研の協力的な対応に対してお礼申しあげたい。分野2の戦略機関FSは、格調の高い挑戦的な目標「源流から奔流へ」を掲げ、基礎科学から応用までの中核を担っている。使命のひとつは、次世代スパコンを使いこなしてこれまでなかったことをする。もうひとつはコミュニティーとして全体としての計算科学を盛り上げることである。昨年11月のTOP500のデータを解析すると、全世界のスパコンの実効性能合計に対して、アメリカはその60%で安定しているのに対し、日本は10数年前までは20-30%程度のシェアであったのに、その後急速に衰退し、今では3%程度になってしまった。分野2は日本を活性化する原動力。世界における比率を10%くらいに引き上げて欲しい。国全体が活性化しなければならない。これからスタート。覚悟を決めてください。

プロジェクトの説明

井上諭一 (文部科学省計算科学技術推進室長)「次世代スパコンプロジェクトについて」

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事業仕分けにより、中学生の娘のクラスでも話題になる程の全国民的な議論となった。計画見直しにあたっては、開発側から利用者側の視点に考え方を転換した。次世代スパコンと大学情報基盤センター、大学、独立行政法人等が保有するスパコン間をネットワークでつないでストレージも共有することを考えている。これらを利用するユーザー機関と保有機関でコンソーシアムを形成し、そこを中心として多様な発展をさせたい。文科省以外の主管も含めたい。具体的な議論はこれからなので、知恵を出してほしい。戦略機関へは、世界を先導する研究成果、科学技術のけん引、10ペタでブレークする技術にチャレンジして欲しい。計算科学研究機構を理研に設立し、国の核となるようにしたい。5つの戦略機関の密な連携が必要で、とくに、分野2は3つの分野が一緒になっているので、連携でブレークする可能性が高い。科学技術のジャンプアップを期待する。

平尾公彦 (理化学研究所)「計算科学研究機構について」

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事業仕分けで翻弄されたが、このプロジェクトを見直すよい機会となった。神戸の計算科学研究機構に関して、建屋は5月の終わりには出来上がるので、10月開設の予定を少し早めるかもしれない。次世代スパコンは、スカラー型の超並列マシンで64万のコアを持つ。この高性能化マシンを使いこなすには、計算機科学と共同連携をとる必要がある。コンピュータ利用環境の健全な構築として、次世代スパコンとそれ以外を重層的に配備する。利用者の立場としては共通のIDとして使いやすい環境にすることが重要。計算科学研究機構は計算機科学のハブ拠点として、産業界との連携組織、計算機科学、計算科学の12部門程度を設立しお互いに連携を図る。次世代に向けた基盤研究の先頭にたっていく人材を育てたい。分野2へは、学理追及と技術革新を期待する。計算科学のモデリングは分野によっては共通なので、計算物理、計算化学、計算材料から分野を超えた連携を促進し、コミュニティーを活性化して欲しい。

常行真司 (戦略機関FS統括責任者)「分野2戦略機関の準備状況」

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分野2は分子、材料、物性の3つのコミュニティーの集合体。研究者、研究課題ではFS実施機関の中で最大規模。物性研、分子研、金研の3つの機関が分野のまとめ。これに9大学と2機構が参加している。組織として、戦略課題は4部会に分かれ、それ以外に人材育成・教育、産官学連携、スパコン連携、広報活動の小委員会を設け、委員約60名選出してFS活動を開始している。基礎科学の研究が現実の応用に使われるのに、例えば超電導は50年かかっている。スパコンの発達は基礎科学から実用をつなぐ時間を一挙に短縮してくれる。2022年に来る半導体の微細化限界は半導体の基本原理が使えなくなる。この先どうすればよいかは誰も知らないが、次世代スパコンは基礎研究と応用の間を近づけてくれる。「源流から奔流へ」。分野2では基礎から社会に役立つ研究へつなげる道筋を示したい。新量子、新物質の基礎研究。新しい材料、分子をつくり、先端デバイス、エネルギー変換に活用したい。太陽光発電への応用が重要なテーマとなる。

意見交換会

伊藤聡 ((株)東芝)

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産業界からのコメントとして、例を挙げて説明したい。燃料電池には白金を主成分とした触媒が用いられているため、1台の自動車に使う量として白金量は50g程度にもなる。これでは普及しない。NEDOのPjで群馬大学尾崎先生は、ナノシェル構造のカーボンアロイ触媒が白金の70%の性能がでることを発見した。何がおきているのかの原理解明を今行っている。この貴金属フリーの触媒は、本質的なバリューイノベーションであり、その波及効果は大きい。このように分野2では材料開発の基礎、物理の解明を大学にお願いし、産業界はエンジニアリングを担うといったキチンとした役割分担が重要である。また、知的財産権のあり方や人財育成、研究成果の見える化の推進、若手人材のキャリアパスの確保も今後、産官学で一体となって解決すべき課題である。

兵頭志明 ((株)豊田中央研究所)

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物質の構造はミクロに既定されるが、材料、部品はマクロに機能を発現する複合的な課題。計算物質科学により、材料、部品の不均質な分布を表現できることが大きなテーマである。例えば、燃料電池を構成する材料、部材ひとつひとつの物性、構造、特徴を把握すると同時に、相互の関連を複合的に検討しないと、実用的な解析は進まない。材料の初期性能を高めても、継続的な性能に問題が発生してしまう場合がある。次世代スパコンでは、独立性の高い理論の深化や新たな切り口による物質の挙動の理解、発見はもちろんであるが、異なる方法、異なる分野間が関連する複合的な物質の挙動の理解も必要である。大規模計算を高精度に行うことで、長時間の間に発生するレアイベント等も予測して欲しい。

パネルディスカッション (パネラー:井上、平尾、寺倉、伊藤、兵頭、常行、 進行:川島)

P1000016.JPGQ(川島)集中すべき戦略課題と広げるべきコミュニティーの形成の2つが戦略機関に求められている。コミュニティーの考え方は?

P1000165.JPG(井上)コミュニティーは裾野である。計算資源は次世代スパコンだけではないので、他の資源も使って分野全体でコミュニティー形成して欲しい。次世代スパコンを核として、オールジャパン体制を敷きたい。計算科学の研究者は独立性が強く、これまではばらばらの印象がある。計算アルゴリズム等分野間で連携できる。

(平尾)物性、分子、材料の分野連携は強い意志をもってやらないとできない。分野2以外も計算には非常に良く似たアルゴリズムを使っているが交流がない。このプロジェクトで成功例を作りたい。能動的に意思をもってやっていく。

(寺倉)日本はなんとなく鎖国状態。国際的につなげる努力が必要。アジアは国際的な連携を強めようとしている。シンポジウムでは、海外から研究者をまねく。全体活性化のためには、若い人も動かす。 Q(家先生)ソフトウエアの輸出入制限の問題は?

(井上)経済産業省の輸出入の制限はある。基本的に申請登録を組織として行えば、海外研究者にソフトを使っていただいてかまわないしネットワーク接続もOK。次世代スパコンでもOKにしたい。

Q(家(物性研))この分野の人材育成で今は何がネックなのか?キャリアパスか?少ないのか?人材戦略か?

(寺倉)キャリアパスの検討がされていない。最近、計算科学のグループが企業にいない。アカデミックと企業のパイプが必要。大学だけで吸収されるはずがないので、キャリアパスの道筋を示さなければならない。戦略機関でも人材育成をどうするかを企業と連携して考えて欲しい。

(平尾)計算科学はかつてブームがあった。今後、産業界と連携したい。ドイツでは新しい計算科学教育カリキュラムとして、マスターであらゆるシミュレーションを勉強し、ドクターで専門を決めるというやり方がスタート。ウオッチしなければならない。

(常行)計算科学の教育がうまくできていない。計算理工学教育は平尾先生が副学長のときにできた。コンピュータサイエンスと計算科学の学生が神戸で連携すれば、融合領域が新しい学問として発展するかもしれない。計算科学は社会の中で使われているが、どこでどう使われているのかがよく見えない。企業の方は可能な限り、外に見せてほしい。それは、人材育成にとってはプラスになる。

(兵頭)企業で一時は計算科学メンバー多かった。しかし、いつでも受け入れるというのは難しい。シミュレーションの基礎を学んだ人は他の分野に役立つ。企業の中でシミュレーションのビジネスモデルのひな形を考えなければならない。学術的な経験を会社で活かすとなると、仕事の設定が課題となる。

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Q(前川(東北大))次世代プロジェクト、オールジャパン。いろいろな大学が協力してやるのはよいが、もうひとつは、独立行政法人にもある。原研、核融合研、理研もある。これらはどうなるのか?これらのコメントを伺いたい。もうひとつは学術会議での議論で、SPring-8、J-PARCといった研究施設がある。次世代スパコンとリンクすれば素晴らしい成果がでるのでは?アメリカのオークリッジはそういう動きがすでにある。

(井上)独立行政法人は、彼らの業務のために施設を利用するのが筋。地球シミュレータのように共同利用として開放をしているものもある。利用の際は法人と共同研究契約をむすばなければならない。そういう中で、コンソーシアムの視野に独立法人のスパコンも入っている。一定の資源を供出してもうことも議論していきたい。SPring-8やJ-PARCは戦略委員会でも議論された。SPring-8利用申し込みと同時に次世代スパコンの申し込みができる等の提案がある。今後、具体的な連携利用はありと考えている。

(平尾)すでに、SPring-8と連携している計算科学領域がある。

Q(今田(東大))第2分野は実験科学が基本にある。実験家の方がここにどれだけいるのか?実験研究者との連携が課題となる。国際化、人材育成とともに、実験研究との連携が必須。個々ではなく全体としてどうするのかを考えなければならない。コンソーシアムはユーザーオリエンテッドな組織をつくるにあたり、ユーザーが参加しながら作るべき。

(井上)どのようなユーザーを巻き込んで議論を進めるのか考えている。一定のコアメンバーを集めても、限られた人でやっていると言われてしまう。オープンな場でのシンポジウムや、パブリックコメントを活用したい。

(寺倉)コンソーシアムの形成は、もっと広く研究者のコミュニティーの中で議論しなければならないのではと考えている。いわれて動くのではなくて、自分らが主体的に動けるのかの課題。戦略機関と情報系のアクティビティーを加わえた中での議論から、主体的に意見を上げて欲しい。

P1000225.JPGQ(杉本(熊本大))戦略機関は大きな研究室をつくろうという流れに見える。戦略以外の個々の課題をプロダクションのようにアレンジするのも重要と考える。戦略以外で次世代スパコンを利用するための公募の仕組みや採択するための方法を教えてほしい。

(常行)戦略プロジェクトでは、重要な課題は集中的にグループとしてやる。戦略課題小委員会がそのミッションを担っている。FS実施機関の運営委員会で資源配分を行う予定。

(平尾)次世代スパコンの利用枠は、戦略機関、一般公募利用(教育、産業界の利用を含む)、メンテナンスも含めた理研枠の3つである。戦略機関の利用枠は5つの分野で均等でなくてもよい。戦略委員会で判断する予定。

レビュートーク

分野2FS実施機関での研究課題は、4つの部会を設けて検討を推進している。レビュートークでは、この4つの部会代表者と、すべての部会と関連する材料研究の代表者より、次世代スパコンで得られるブレークスル―は何かを述べていただいた。

今田正俊 (東京大学) 第1部会「新量子相・新物質の基礎科学-1」

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この部会では、プロジェクトの目標である「源流から奔流へ」の源流に相当する研究を検討している。ここでは新量子相、新物質、新相転移等の物理の源流の話しをする。基礎物理は20世紀前半に量子科学が発展し、半導体産業に役立っている。次世代スパコンでは、新量子相等の新しい基礎物理の概念を探索発見し、いかにして人類の生活に役立て、次の産業革新につなげていくのかが目的となる。実験物理学は日本独壇場。実験物理で得られた現象のメカニズムの解明を、次世代スパコンならではの大規模計算科学ではっきりさせたい。

天能精一郎 (神戸大学) 第1部会「新量子相・新物質の基礎科学-2」

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第1部会の分子科学サイドの話しをする。これまで分子の電子状態理論を検討してきたが、次世代スパコンは分子機能や科学反応の理論を操る奔流を追及できる。超並列計算による新しい量子化学のパラダイムシフトにより、超高精度量子化学計算による完全予測、擬縮重電子系に対する量子化学の基盤技術の確立、ナノ分子の集積化や自己集合による機能の創発、新しい発光分子とホール、電子移動層の分子設計、創薬やバイオ系への応用が可能となる。基礎研究と応用研究で世界をリードするチャンス。

押山淳 (東京大学) 第2部会「次世代先端デバイス科学」

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この部会では、物理の基礎に戻ってデバイスのサイエンスや応用を考える。トランジスタやレーザ等の量子科学の原理に基づいたデバイス市場は30兆円。このトランジスタは原子を切り刻むことはできないため微細化の限界に突き当たっており、微細化以外で新な道をきりひらかなければならない。構造的には2次元から3次元になる。ナノ形状で発現する機能、非平衡ダイナミクス、原子移動による製造技術等の中で、実験ではできない領域を、計算科学による演繹と予測で行う。次世代スパコンの超並列アーキテクチャで、これまでの10倍程度の10万原子を扱い、で理論最高性能の予測を行う。

岡崎進 (名古屋大学) 第3部会「物質変換と分子機能」

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この部会では、分子科学の立場から単分子と分子の集合体での機能発現を検討する。生体物質、ウイルス等の分子間は水素間結合、ファンデルワールス力等の弱い力で結合され、半分だけ秩序化している。熱ゆらぎによって時々刻々大きく構造を変えるので、構造は統計的な理解が必要。このしなやかで躍動感あふれる真の分子物質像、新しい分子物質観の創生と確立を目指したい。これまでは、ウイルス分子の1断片での計算であったが、次世代スパコンでは1千万原子程度の分子を丸ごと計算可能となる。

杉野修 (物性研究所) 第4部会「エネルギー変換-1」

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ここでは、化学反応を利用して、太陽光、電気、熱のエネルギー変換を扱う。源流となる基本原理を活用し、可能性実証、応用までを視野に入れる。現在、燃料電池の触媒として用いている白金の代替となる材料の探索、水素、メタンハイドレートでの反応等、非平衡状態での化学反応を取り上げる。国産のソフトを積極的に取り入れて、大規模計算による応用研究を主として推進する。

山下晃一 (東京大学) 第4部会「エネルギー変換-2」

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エネルギーの化学的変換と貯蔵の基礎原理の解明とそれに基づくクリーンなエネルギーの創成が課題。次世代スパコンを駆使してモデル化しない実在系のシミュレーションを実現し、新規な環境調和型エネルギー源を開拓する 。また、シミュレーション結果の、メタン採取、エタノール製造、 太陽電池、燃料電池、リチウムイオン電池への応用を目指す。

毛利哲夫 (北海道大学) 部会共通「材料機能と計算材料科学」

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材料は原子、分子の集合体。実用材用は大きさや形状の異なる不均一な内部組織の集合体からなるため、材料特性の本質が何であるかの解明は難しい。材料がエネルギーを「つくる」、「運ぶ」、「効率よく使う」の現象を、次世代スパコンを用いて空間的・時間的マルチスケール計算手法の開発を行って理解するとともに、データを蓄積して、マテリアルズインフォマティクスに発展させたい。

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