現在位置: ホーム 研究活動 5つの戦略課題 第4部会:エネルギー変換 重点課題3:金属系構造材料の高性能化のためのマルチスケール組織設計・評価手法の開発

重点課題3:金属系構造材料の高性能化のためのマルチスケール組織設計・評価手法の開発

作者: admin — 最終変更 2013年10月03日 01時17分

[担当者]
産総研:香山正憲、田中真悟、Vikas Sharma、新日本製鐵:澤田英明、川上和人、松宮徹、北陸先端大:尾崎泰助、阪大:尾方成信、君塚肇、横浜国立大:大野かおる

[課題概要]
飛躍的に優れた構造材料や耐熱材料の開発は、火力発電・地熱発電・航空機タービンエンジン等におけるエネルギー変換機器の効率の飛躍的向上、自動車や列車・航空機など輸送機器の軽量化による省エネ化など、エネルギーの有効利用のために不可欠の課題である。こうした実用材料は多結晶体であり、合金成分や添加元素を含み、種々の析出相や界面・欠陥で構成される「微細組織」が優れた耐熱性や機械的性質を発現する。こうした「微細組織」の構造や性質、合金成分・添加元素(レアメタル)の役割等を解明し、設計技術を確立するため、第一に、結晶相のみならず、異相界面・粒界・転位など、微細組織を構成する複雑構造の大規模第一原理計算を行い、異相界面や粒界・欠陥での原子配列や原子間結合の様子やエネルギー、不純物の挙動など、原子・電子の振る舞いを高精度に明らかにする。第二に、相変態や析出、拡散など有限温度の自由エネルギーに支配されたメゾスケール現象を理解し設計するため、Phase-Field法を第一原理計算と組み合わせて適用する。

[成果目標とその科学的・学術的意義]
鉄鋼材料中では、レアメタル(希少元素)等を含む添加元素や合金成分が、析出相を生んだり、粒界・欠陥と相互作用するなど、構造や性質を大きく支配する。特に炭化物や窒化物などの析出相と周りの金属との界面は、格子misfitのため界面近傍に転位や歪を生み、機械的性質を大きく支配する。こうした異相界面形成や粒界・転位での添加元素・合金成分の挙動の解明は、微細組織を理解し設計するための最重要課題である。そこで、格子misfitを丸々取り入れた異相界面(金属炭化物/鉄界面等)や、複雑な粒界、転位の大規模第一原理計算を、オーダーN手法であるOpenMXを用いて行うことで、未解明の複雑構造を明らかにする。局所的な応力やエネルギー分布をQMASを用いて解析することでメカニズムを検討する。また、Phase Field法について、第一原理計算から勾配エネルギーなどパラメータを導出する手法等についての検討を進め、同じ材料での連携計算を進める。
まず、鉄鋼材料中で重要な役割を果たすNaCl構造の金属炭化物・金属窒化物(Ti、Nb、Vなどレアメタルの炭化物、窒化物)と鉄の界面について、格子misfitをなくすように鉄側を変形させたcoherent界面モデルと、格子misfitを可能な限り取り入れたsemi-coherent界面モデルについて、OpenMXでの大規模第一原理計算を行う。界面の応力分布など、QMASで補助的な分析を行う。semi-coherent界面のスーパーセルは、1万原子を容易に超えるため、10000コアオーダーの並列計算の実行を目指す。一般に析出粒子が小さい場合は周囲に歪をもたらすcoherent界面が安定で、粒子が大きくなると界面に転位を持つsemi-coherent界面が安定になると考えられるが、両者の安定性が入れ替わるcriticalなサイズや各々の界面が強度に及ぼす効果等は未解明である。詳細なエネルギー比較や構造分析により、実際の鉄中での析出相や界面の成長様式や存在形態が解明でき、強度に及ぼす効果が明らかになる。微細組織を理解し、レアメタル代替技術を開発するための貴重な知見が得られる。また、Phase Field法については、第一原理計算結果からパラメータを構築する手法について、理論的な検討を進める。
本課題には、以下の科学的・社会的意義がある:(1) 複雑な微細組織を理解し、設計する技術が確立され、優れた強度と靭性、耐熱性を併せ持つ金属材料開発が可能となる。高効率のエネルギー変換技術、輸送機器の省エネ化、大型構造物の耐震性向上等に繋がり、持続発展社会のために不可欠である。(2) レアメタルを添加すると、レアメタル自身の炭化物や窒化物が析出したり、レアメタルが粒界や転位と相互作用することで、優れた強度や靱性、耐熱性を持つ材料が開発されている。しかし、その機構の詳細は未解明である。異相界面や粒界・欠陥の大規模第一原理計算により、レアメタル元素の役割が解明されれば、レアメタル代替の方策が明らかとなり、代替材料開発が飛躍的に進む。元素戦略上の意義は極めて大きい。
なお、以下の方々と協力しながら進める:田中功(京大)、陳 迎(東北大)、小山敏幸(名古屋工大)、川添良幸、水関博志、佐原亮二、志田和人(東北大)、毛利哲雄、大野宗一(北大)、西谷滋人(関西学院大)、石橋章司(産総研)、椎原良典(東大)