現在位置: ホーム 研究活動 5つの戦略課題 第1部会:新量子相・新物質の基礎科学 重点課題1:相関の強い量子系の新量子相探求とダイナミックスの解明

重点課題1:相関の強い量子系の新量子相探求とダイナミックスの解明

作者: admin — 最終変更 2013年11月20日 07時18分

本課題は、第一原理に立脚する強相関量子多体系の高精度な予測・解明と、本質と原理を抽出するための理論模型による大規模計算、という両輪から成り、有機的に連携する。研究手法として、量子モンテカルロ法、厳密対角化法、種々の数値的な繰り込み群法を出発点に、切磋琢磨かつ連携して新しい手法開発と大規模並列計算への応用を推進する。個々の手法には関連が深く、独立した研究を推進しつつも、緊密に協力を図る。当面、大規模並列化を推進する研究手法は以下の4つである。

  1. ループアルゴリズムによる量子モンテカルロ法
  2. 有限温度および実時間発展を含む密度行列繰り込み群法
  3. ダウンフォールディング計算における制限RPA法
  4. 多変数変分モンテカルロ法

また、必要に応じて新たなものを含めて計算手法を組み合わせた活用を図る。この重点課題のもとに以下の3つの研究項目での研究を推進する。

研究項目1:電子相関の強い現実物質の新機構解明と制御法開拓に関する研究

[担当者]東京大:今田正俊、求幸年、有田亮太郎、中村和磨、青木秀夫、高田康民、産総研:三宅隆、 電通大:黒木和彦

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[課題内容・背景・重要性]電子間のクーロン相互作用の効果を高精度で扱う手法の開発は、基礎物質科学の進展と新機能素子開発などの次世代産業応用の両面から需要が大きい。新量子相や新現象、新奇物質は物理概念の革新を生み出し、新機能への期待も大きい。例えば(1) 銅酸化物や2008年に発見された鉄を含む系などに代表される、非従来型の機構に媒介される高温超伝導、(2) 通常金属のような従来型量子液体の延長線上にない新量子液体。その候補である量子スピン液体や非フェルミ液体、(3) トポロジー機構に基づく新概念。例えば絶縁体でありながら表面のみが特異で強固な金属となるトポロジー絶縁体のような新量子相や、トポロジー変化や粒子分化が生む新しい量子相転移と量子臨界、などは大きな可能性を秘めており、本プロジェクトで解明すべき主要な挑戦課題である。

fig1-3.png[研究手法]電子状態の示す階層構造に基づき、(1)グローバルな電子状態、(2)有効模型へのダウンフォールディング、(3)有効模型ソルバーの適用という3段階で、物性を解明する。LDA/GGAによる第一原理計算、GW計算、制限RPA、低エネルギーソルバーとして経路積分繰り込み群法、多変数変分モンテカルロ法、量子モンテカルロ法、クラスター動的平均場近似、密度行列繰り込み群等を用いる。 [次世代スーパーコンピュータの必要性と実現可能性]ダウンフォールディング、有効模型ソルバーともに、サイズを確保し高精度計算を行うには超並列コンピュータが必須である。ダウンフォールディング計算の大半を占める誘電関数計算、有効模型ソルバーの解法の多くは超並列化に向いている。相図作成やパラメタ探索では

さらに超並列計算が威力を発揮する。それぞれ、104以上の並列計算による効率化によって、複雑強相関物質の磁性、超伝導性を含む伝導性、誘電性などを結晶構造と物質の組成に基づき第一原理的に予測する手法が確立できる。

[具体的な成果目標]第一原理計算手法と電子強相関に対する高精度解法を組み合わせたハイブリッド法(3段階手法)を用い、遷移金属化合物、有機導体、界面やゼオライトなどのナノ構造物質・強相関物質に対し、高精度第一原理計算を行い、新奇な量子相、量子機能性を少なくとも1つ発見し、機構解明や未知の新物質の定量的物性予測を行う。新高温超伝導体の定量物性予測と超伝導機構の解明、高い熱伝変換効率を持つ物質、種々の新奇量子液体、秩序の競合や量子臨界が生む新量子相、新機能物質の探索と開拓を行う。

研究項目2:強相関電子系の励起ダイナミクスの研究

[担当者]京都大:遠山貴巳、原研:前川禎通、町田昌彦、分子研: 米満賢治

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[課題内容・背景・重要性]励起ダイナミクスの研究によって得られる外場への応答の理論や量子ビームを用いたスペクトロスコピーなどの実験に対する情報は、強相関基礎科学の深化に貢献し、強相関電子系特有の電子内部自由度による量子効果を最大限活用した次世代新機能デバイスの設計指針は応用へとつながる。強相関電子系では、電磁気的応答など励起ダイナミクスに特有の量子現象が出現する場合がある。例えば、一次元モット絶縁体である銅酸化物やニッケルハロゲン架橋錯体は巨大非線形光学応答を示す。さらに光励起状態がピコ秒オーダーで緩和する超高速緩和現象も発見され、次世代光スイッチング素子として有望である。また、電子格子相互作用が強い低次元有機錯体では光照射に伴う電荷秩序の融解や光誘起相転移が観測されており、光学素子の可能性も秘めている。

[研究手法] 強相関電子自由度の正確な格子模型に加えて必要に応じて格子系も取り込む。動的密度行列繰り込み群法、厳密対角化法を主に用い、有限温度の性質も計算する。励起状態の時間発展の計算には、時間依存密度行列繰り込み群法や時間依存シュレディンガー方程式の平均場近似計算など用いる。

[次世代スーパーコンピュータの必要性と実現可能性]強相関電子系の励起スペクトル・ダイナミクスの計算には、膨大な計算機時間と記憶容量が必要であるため、通常取り扱う系のサイズが限られる。次世代スパコンにより、この制限を大きく緩和して、より厳密な結果が得られる。本グループが用いる動的密度行列繰り込み群法はナノ統合プロジェクトの中核アプリケーションとして次世代スパコンでの効率的計算のためのチューニングが進んでいる。

[具体的な成果目標]強相関電子系の励起ダイナミクスの理解と新奇量子現象の発見を目指すとともに、軌道・スピンなど電子の内部自由度による量子効果を活用した新機能デバイスの設計指針の構築をすすめる。

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研究項目3:量子モンテカルロ法による新しい量子相・量子臨界現象に関する研究

[担当者] 東京大:川島直輝、藤堂眞治、宮下精二、首都大:岡部豊

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[課題内容・背景・重要性]統計力学の基礎から見て、「多体問題として真に新しい現象」を大規模シミュレーションの助けを借り、新奇構造を設計して探索する研究が盛んに行われている。例えば、脱閉じ込め臨界現象と呼ばれる、低次元量子系に特有の新しいタイプの臨界現象が場の理論から予測された。これは相転移でありながら、ランダウが提唱し相転移の標準的な起源として知られる「自発的対称性の破れ」の範疇に入らず、実在すれば教科書を書き換える発見になるとして注目されている。また、不純物効果の生み出す新しい量子磁性相の可能性も研究されている。一方、光格子中の冷却原子系においては、ボーズアインシュタイン凝縮をはじめ、ボーズ系モット転移、Effimov効果、Bloch振動、Anderson局在した波動関数の実測など、理論上予測されながら、固体中での実証の難しかった現象が検証可能な「モデル系」が次々に実現しつつあり、さらに理論予測を超え、概念の革新につながる系の設計も多彩に提案されつつある。

[計算手法] 主として経路積分表示に基づく量子モンテカルロ法。

[次世代スーパーコンピュータの必要性と実現可能性]ランダム効果と量子臨界性は全く異なるが、生の結合定数と秩序が観測される温度の間に大きな隔たりを生むという共通点を持ち、ともに必要な計算量が大きい。またモンテカルロ計算は並列化に適している。我々の用いる連続時間ループ・クラスタアルゴリズムは、藤堂がナノ統合プロジェクトの中核アプリケーションとしてすでに開発中であり、並列化チューニングが進んでいる。

[具体的な成果目標] ランダムネスの効果も含め、種々の量子スピン模型、低次元量子模型に対して大規模並列計算を実行する。これによって、上記の脱閉じ込め臨界現象、ランダムネスによる新奇な臨界特性など物性物理と統計力学の教科書を書き換えるような新概念の数値検証、提案をめざす。さらに光格子中の冷却原子系のような新奇構造などを用いて、新概念を実験検証する実験を提案し、高精度の予言を行うとともに、新概念を具現化する新機能系の設計指針を明らかにする。

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