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サブ課題2:バイオマス利用のための酵素反応解析

作者: admin — 最終変更 2013年11月20日 07時14分

[担当者] 分子研:吉田紀生、平田文男、東北大:森田明弘

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[課題内容・背景・重要性] 食料と競合しないバイオマスエネルギー源としてセルロースが大きな注目を集めており、セルロースからアルコールを高効率に生成する技術が求められている。セルロースの加水分解には、熱水や強酸を用いた化学処理と酵素を用いた生物化学的な方法がある。前者は生成自体にエネルギーが必要なことや、廃液による環境負荷の問題が指摘されている。一方、酵素処理は酵素の再利用性が高く環境負荷も低いことや、マイルドな条件下での反応であることからエネルギー効率の向上も見込めるなど、今後のバイオマスエネルギー生成の中心になりえる技術である。本課題では、セルロース分解酵素によるアルコール生成過程に関する統合的な計算科学的解析を行う。酵素反応過程を詳細に解析することで、最適な反応条件を提案する。また、酵素のスクリーニングにより高効率酵素の設計につなげる。

[計算手法] セルロース分解酵素によるアルコール生成反応は大きく二つの段階に分けることが出来る。(図)一つは酵素が基質であるセルロース及び水分子と安定な複合体を形成する分子認識過程、もう一つは形成した複合体においてセルロースを加水分解する化学反応過程である。この反応において水分子は分子認識過程の自由エネルギー変化を支配する溶媒としての役割とともに、加水分解反応の反応物質のひとつとして重要な役割を演じる。分子認識過程では3D-RISMと分子力場法または分子動力学法を組み合わせた手法を用いて、酵素・水・セルロースの複合体の構造安定性に関する自由エネルギー解析を行う。加水分解反応の解析では分子認識過程で決定された複合体の構造を初期構造として3D-RISMとFMO/MP2による量子化学計算を行い、加水分解反応の速度の解析を行う。いずれの計算も次世代ス−パーコンピューターによる10万並列以上での計算を行う予定である。以上の統合的な方法を用いて、アミノ酸置換により種々のセルロースを最も効率良く分解する酵素の設計を行う。

[次世代スパコンの必要性・実現可能性] 3D-RISMを用いたタンパク質の分子認識過程の解析はすでに多くの成果を挙げている。また、3D-RISMと大規模分子の電子状態理論を組み合わせた手法(QM/MM/RISM)も開発され、成果を挙げている。これまでは近似法のQM/MMを用いてきたが、次世代スパコンを用いることで全電子状態計算理論である分割分子軌道法(FMO)と組み合わせた計算が可能になる。また、3D-RISM自体の大規模並列化についてもT2K上で10、000コア以上でのスケーラビリティを達成している。これらの方法と次世代スパコンの計算能力を合わせることで、本課題が目標とする酵素反応解析は十分に実現可能である。また、次世代スパコンを用いることで、アミノ酸置換による酵素のスクリーニングも可能になる。

[具体的な成果目標] バイオマス利用を目的とした、酵素によるセルロースからのエタノール生成技術の高効率化には、酵素反応の詳細な解析が不可欠である。そのための酵素反応に関わる全ての要素(酵素の構造、分子認識過程、化学反応)を統括的・第一原理的に解析する手法を確立する。本手法を用いて酵素によるセルロース生成の統括的な解析を行い、反応効率化の可能性に関する科学的知見を得る。また、アミノ酸置換による酵素のスクリーニングを行い、酵素反応効率に関する知見を得る。